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エッセー
: ベスト・エッセー 2006/12
祈りは、宇宙とつながるツール
2006/12
原 水音(みお) (和歌山県/エッセイスト)
おそい午後の陽ざしがゆったりと金色にかたむく頃、犬の散歩に出かける。犬、といってもウチの犬ではない。レンはお隣のワンちゃん。でも、なぜか私にとてもなついてくれているから、村はずれの神社の奥までウオーキングのお供に連れていくのだ。
神社の手前で車道を折れ、川ぞいの小道に入ると、風景が一変する。たっぷりと水蒸気をふくんだ空気が、木や草、苔の匂いを鮮やかに立ち昇らせている。人間の気配がすうっと遠のいて、川の水音と、ひめやかな植物の吐息があたりを支配していた。
首輪を外してやると、レンは息をふきかえしたように力をみなぎらせて走りだす。草むらに顔をつっこんで生きものの匂いを嗅ぎ、岩のすき間から湧き出る水に飛びこみ、あっという間に、野生にかえっていく。私は、そんなレンがとてもうらやましい。
大地の母のヘソから切り離され、自然から遠ざかって生きる現代人は、心の奥に理由のみあたらない深い喪失感をいだき、満たされない何かを求めて、心や体は悲鳴をあげている。
自然に抱かれていると、ただそれだけで心身がリラックスしてくる。でも、ただ自然をながめているよりも、自然に向かって感謝の祈りを捧げると、もっと深く自然と、宇宙とひとつになれる。
祈りは、宇宙とひとつにつながるツールである。
天、大地、太陽、海、植物、動物、そして私自身の肉体に、生きとし生けるものすべてに感謝を捧げ、水の星、地球に生れた幸せをかみしめながらこの星の平和を祈る。それがわたしの祈りだ。
滝の前に立ち、深呼吸して祈りの言葉を放つと、滝の水音と私の声が重なる。声を通して私のいのちと、流れる水の生命エネルギーがひとつにとけて響きあう。
すると金属が高速で回転するような、あるいは放牧の民が草原で歌う倍音のふしぎな音色のような高周波音があたりに響きわたって、水音と、祈りの真言がみるみる全身の細胞を活性化させていくのを感じるのだ。
祈る私は空っぽ。そこには、いっさいの私心も自我もない。
ただ、いのちの光に満たされて、感謝の思いだけが湧きあがってくる。まるで天から降りそそぐ光のシャワーを浴びているみたいだ。
日常のささいな出来事を悔やみ、悲しみや痛みを手放す勇気がなくて、不安の苦い種をずっとしゃぶり続けている。そんな自分がふっと消え去り、祈る私は、ただいのちの光そのものになり、宇宙に抱かれて笑っている。
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